内部監査における客観性とは?定義・基準・実務対策
- 敏行 鎌田
- 9月16日
- 読了時間: 6分
内部監査の客観性とは、監査人が公正不偏な態度で判断し、利害や影響から自由に結論を下すこと。IIAのグローバル内部監査基準では客観性の維持・防御・開示が明確化され、個人レベルのバイアス管理、12か月ルール(直近の担当領域のアシュアランス禁止)、贈答・利害相反の回避、インペアメント(侵害)の迅速な開示などが求められます。基準はすでに全面適用され、品質評価では2025年1月9日から新基準に基づく評価が行われます。
客観性の定義と位置づけ
定義(要旨):客観性とは、内部監査人が偏りのない精神的態度を保ち、職業的判断を妥協なく行う能力。内部監査が独立した位置づけにあるほど、監査人がこの客観性を保ちやすくなります。
日本語版の表記:IIA日本語版でも、客観性は「公正不偏な精神的態度」と定義されています。

最新IIA基準(2024)における「客観性」の必須要件
IIAのグローバル内部監査基準は、客観性を原則(Principle 2)として位置づけ、以下の3つのスタンダードを規定します。
1:Individual Objectivity(個人の客観性)
監査人は常に公正・不偏な心構えで判断すること
認知バイアス(自己レビュー、馴れ合い、無意識の偏見など)を自覚し、管理すること
2:Safeguarding Objectivity(客観性の防御)
実際・潜在・見かけ上の客観性侵害(インペアメント)を回避・軽減
贈答・便宜の受領禁止、利害相反の回避、上位者や政治的環境からの不当な影響を拒否
12か月ルール:過去12か月以内に業務責任を負っていた活動について、アシュアランスは禁止(助言業務は事前開示のうえ検討可)
CAEは客観性侵害に対するプロセス(手法)を整備し、監査人は従うこと
3:Disclosing Impairments(侵害の開示)
客観性が事実上または外観上損なわれる可能性がある場合、速やかに適切な関係者へ開示
CAEは必要に応じ、被監査部門や経営陣、取締役会と協議して解決策を決定
事後に発覚した場合も、影響を評価し適切な対応を行うこと(11.4「誤りと遺漏」も参照)
客観性と独立性の違い(スリーラインズモデルで理解)
独立性=内部監査機能が経営(第1・第2線)から独立し、取締役会等のガバナンス機関に直接アカウンタビリティを持つこと(第三線の独立性)。この配置が客観性の実践を支える基盤です。
客観性=個々の監査人が偏りのない判断を維持する心構えと行動。
客観性を脅かす典型バイアスと「兆候」
バイアス | 兆候(現場で起きがち) | 適用できるセーフガード(例) |
自己レビュー | 自分が設計/運用した統制を自分でレビュー | 12か月ルールの徹底、担当割当フィルタ、ピアレビュー |
馴れ合い(親近) | 被監査部門との私的な関係・長期常駐での距離感喪失 | ローテーション、利害相反開示、外部リソース活用 |
無意識の偏見 | 固定観念による証拠の選別 | バイアス研修、監査プログラムの証拠要件明確化 |
外部からの影響 | 上位者・政治的圧力、成果連動報酬の歪み | 報酬設計の見直し、委員会への直接報告、苦情/是正ルート整備 |
贈答・便宜 | ギフト・会食・便宜の提供 | 受領禁止/上限・申告の規程、教育と監査での検証 |
実務で効く「客観性セーフガード」12選(そのまま使える)
内部監査基本規程に、ボード直轄・無制限アクセス・独立性/客観性の防御を明記。
利害相反・贈答の年次アテステーション(全員・案件前)。
担当割当フィルタ:過去12か月の責任領域はアシュアランス割当不可。
CAEレビュー+ピアレビューで自己レビューを排除。
報酬・評価制度が客観性を損なわないよう、人事部と設計見直し。
贈答・接待は部門規程を会社基準より厳格に(ゼロベース推奨)。
監査計画レビューで被監査部門からの介入や政治的影響を記録・是正。
監査委員会への四半期報告に客観性侵害の有無を定期項目化。
苦情・異議申立てルート(ホットライン)で上方エスカレーションを確保。
バイアス研修(自己レビュー/親近/無意識バイアスのケース学習)。
QAIP(品質保証・改善プログラム)で客観性関連KPI(開示件数、是正までの時間など)を監視。
小規模部門は必要に応じコソーシング/アウトソーシングで客観性を補完。
小規模の内部監査部門での現実解
人員が限られる場合でも心配はいりません。IIAは小規模部門への適用も想定し、柔軟な適用を認めています。たとえば外部リソース活用、スケジュール調整、範囲の調整などでインペアメントを回避/軽減する実務が示されています。
「独立性・客観性の侵害」をどう開示・是正するか
誰に/いつ:速やかに、CAE→被監査部門・経営陣・取締役会へ。必要に応じスコープ再設計、人員差し替え、時期変更、外部委託。
日本の実務:IIA日本のガイダンスでも、独立性や客観性が損なわれた場合の報告が求められています。
監査委員会・経営陣に示すべき「証拠」
研修記録(客観性/倫理)
利害相反・贈答アテステーション
割当フィルタ/ピアレビューの記録
委員会議事録(客観性報告)
QAIPの結果(内部/外部評価)— いずれもIIAが例示する「エビデンス・オブ・コンフォーマンス」に該当します。
すぐに使える:「客観性ポリシー」サンプル条項(抜粋)
本部門の構成員は、個人の客観性を保持し、偏りのない判断を行う(Standard 2.1)。 利害相反・贈答・便宜の受領は禁止し、実際・潜在・外観上の侵害を回避・軽減する(Standard 2.2)。 過去12か月に業務責任を負った活動についてはアシュアランスを実施しない。助言業務を行う場合は事前に潜在的侵害を開示する(Standard 2.2)。 侵害が判明または疑われる場合、速やかにCAEへ開示し、CAEは必要に応じ被監査部門・経営陣・取締役会へ報告して対応を決定する(Standard 2.3)。 本ポリシーの運用状況は監査委員会へ定期報告し、QAIPにより継続的に評価・改善する。
よくある質問(FAQ)
Q1. 客観性と独立性の違いは?
A. 独立性は部門の組織的な配置(第三線としての独立)、客観性は監査人個人の判断の中立性。独立な配置が客観性を後押しします。
Q2. 業務部門と兼務しているが監査してよい?
A. 直近12か月に責任を負った活動に対するアシュアランスは不可。助言は事前開示が条件です。
Q3. 客観性侵害が「見かけ上」でも開示は必要?
A. 外観上の侵害でも開示が必要。迅速な報告と代替措置(人員差し替え・スコープ調整など)を検討します。
Q4. 新基準はいつから有効?
A. 基準自体は全面適用中で、品質評価は2025年1月9日から新基準で評価されます。