内部監査におけるマテリアリティとは?他モデルとの関連性や事例まで徹底解説
- 敏行 鎌田
- 8月18日
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目次
マテリアリティ設定の高度化フレームワーク(量的・質的・定性的統合)
二重マテリアリティと開示基準(CSRD/ESRS/ダブルマテリアリティ)
内部統制とマテリアリティ:COSO/ISSA 5000との統合
内部監査によるマテリアリティプロセスの評価とアシュアランス
内部監査における質的判断と三ラインモデルの再定義
データドリブン監査と先端技術(CAATs/GenAI/継続的モニタリング)
事例分析:ESG/サステナビリティ実務における内部監査の革新
相互運用性とグローバル開示対応:投資家視点とレギュレーション準拠
今後の展望:アジャイル監査/価値創造支援型洞察への進化
マテリアリティ設定の高度化フレームワーク(量的・質的・定性的統合)
マテリアリティ評価は、財務的影響度(量的)、企業戦略との整合性(質的)、およびステークホルダーの期待や社会的要請(定性的)の三要素を統合的に考慮する必要があります。
特に近年では、KPMGの"True Value"モデルなどに見られるように、社会的・環境的インパクトを貨幣換算し、財務価値と統合する動きが加速しています。
マテリアリティの優先順位づけは、リスク・機会の両面を踏まえて動的に再評価されることが推奨されます。
二重マテリアリティと開示基準(CSRD/ESRS)
EUのCSRD(企業持続可能性報告指令)およびESRS(欧州サステナビリティ報告基準)では、二重マテリアリティ(ダブルマテリアリティ)が中核概念として採用されています。企業は財務マテリアリティ(自社への影響)とインパクトマテリアリティ(社会・環境への影響)の両方を評価する必要があります。内部監査は、この評価プロセスの透明性、合理性、そしてステークホルダー関与の正当性を審査対象とし、非財務報告の信頼性確保に貢献します。
内部統制とマテリアリティ:COSO/ISSA 5000との統合
内部統制の国際的枠組みであるCOSO ERMおよびISSA 5000(持続可能性保証基準案)では、マテリアリティはリスク評価・対応の出発点として定義されています。
内部監査は、これらフレームワークとの整合性を確認し、マテリアリティ選定からKPI設計、報告書作成までの一連の統制手続きを精査します。これにより、持続可能性情報の信頼性と保証可能性が飛躍的に向上します。
内部監査によるマテリアリティプロセスの評価とアシュアランス
内部監査は、マテリアリティの決定プロセスそのものがガバナンス・ステークホルダー対応・戦略整合の観点で適切に構築されているかを評価します。加えて、報告に用いられるKPI・KRIのデータ精度、一貫性、モニタリング体制の有効性についても監査対象となります。JIARFの報告では、こうしたプロセス評価を通じて内部監査が独立的かつ価値貢献的に機能している実態が報告されています。
内部監査における質的判断と三ラインモデルの再定義
IIA(内部監査人協会)が提唱する三ラインモデルでは、内部監査部門はリスク管理と統制に対する独立的保証を提供する第3ラインとして機能します。ただし、マテリアリティの文脈では、質的判断(e.g. 社会的期待への対応、将来リスクの洞察)も重要であり、形式的な遵守に留まらず、戦略的アドバイザーとしての役割も強化されつつあります。質的判断を支えるには、クロスファンクショナルな知識(ESG、法務、財務、デジタル技術)が必要とされます。

データドリブン監査と先端技術(CAATs/GenAI/継続的モニタリング)
デジタル化されたマテリアリティ監査では、CAATs(コンピュータ支援監査技法)やRPA、継続的監査技術(Continuous Auditing)が広く用いられています。さらに、生成AI(GenAI)の導入が進んでおり、監査計画の自動設計、リスク因子の抽出、文書レビューの効率化などで顕著な成果を上げています。WestRock社では、AIにより監査の初期設計からレポートまでの所要時間を40%短縮し、戦略提言に時間を集中させることに成功しました。
事例分析:ESG/サステナビリティ実務における内部監査の革新
日本国内でも、G社では調達サプライチェーンのサステナビリティ監査、A社では気候リスクのシナリオ分析監査、F社では人的資本に関するKPI監査など、マテリアリティを起点とした実践事例が多数報告されています。これらの事例では、リスク選定から実査、改善提言に至るまでのプロセスにおいて、内部監査が主導的な役割を担っている点が共通しています。これにより、マテリアリティが"単なる開示要件"から"経営判断支援"へと進化していることが示されています。
相互運用性とグローバル開示対応:投資家視点とレギュレーション準拠
ISSB、CSRD、TCFDなど多様な開示基準の並立を踏まえ、内部監査にはそれら基準の相互運用性や整合性を確保する支援機能が期待されています。具体的には、マッピング表の妥当性検証、開示の粒度・頻度・測定手法の一貫性評価、ならびに投資家視点に基づく情報価値のレビュー等が求められます。証券アナリストやESG評価機関との対話履歴を分析対象とする監査アプローチも注目されています。
今後の展望:アジャイル監査/価値創造支援型洞察への進化
マテリアリティを活用した内部監査は、単なる遵守確認から戦略的意思決定支援への転換期を迎えています。特に、アジャイル監査の導入により、重要リスクの変化に即応したタイムリーな監査が可能となり、価値創造との連携が強化されます。将来的には、マテリアリティと内部監査が統合的に機能し、持続可能性と収益性の両立を支援するガバナンス基盤として進化することが期待されます。







