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内部監査部門の立ち上げ方|ゼロから始める7ステップと規程・人員・年間計画の作り方

16 時間前
読了時間: 20分

「来期から内部監査室を立ち上げてほしい」ある日突然そう任命され、何から手をつければよいか分からずに検索している方も多いのではないでしょうか。IPO準備、グループ再編による親会社からの独立、事業規模の拡大、不祥事を契機とした体制の立て直しなど、内部監査の部署をゼロから立ち上げる場面は、成長企業ほど必ず訪れます。

内部監査部門の立ち上げは、規程のひな形を埋めれば終わる仕事ではありません。経営者や取締役会が内部監査に何を期待しているのかを確かめ、組織上の位置づけと報告ラインを設計し、限られた人員で回せる監査計画をつくり、最初の監査で「型」を固める——この一連のプロセスをやり切って初めて、内部監査は「機能している」と評価される状態になります。

本記事では、内部監査の部署(事業部・部門)の立ち上げを任された方や、立ち上げメンバーとして参画する方に向けて、立ち上げの7ステップ、初年度のスケジュール例、IPO準備企業が押さえるべきポイント、よくある失敗、そして新規事業部の立ち上げ時に内部監査がどう関わるべきかまでを解説します。


内部監査部門の立ち上げが必要になる5つの場面

内部監査部門が新設される典型的なきっかけは、次の5つです。自社がどの場面に当たるかによって、立ち上げの優先順位とスピード感が変わります。

  1. IPO(株式上場)準備:上場審査では、内部監査を含む内部管理体制が整備され、実際に機能していることが確認されます。最も多い立ち上げのきっかけであり、スケジュールの制約が最も厳しいケースです。

  2. 上場後の体制高度化:上場時は少人数・兼任で始めた内部監査を、J-SOX(内部統制報告制度)やコーポレートガバナンス・コードへの対応を踏まえて、専任部門として強化するケースです。

  3. グループ再編・親会社からの独立:これまで親会社の内部監査部門に監査を委ねていた子会社が、独立・統合・持株会社化などを機に自前の内部監査機能を持つケースです。

  4. 事業規模の拡大:従業員数や拠点数、子会社数が増え、経営者が現場を直接見渡せなくなった段階で、「経営者の目と耳」として内部監査が求められるケースです。

  5. 不祥事・重大インシデントの発生:不正や品質問題などを受け、再発防止策の一環として内部監査部門を新設・再構築するケースです。経営者・取締役会の期待が明確な反面、短期間での実効性が問われます。


立ち上げ前に押さえておきたい3つの前提

前提1:一般の事業会社に「設置義務」はないが、事実上は不可欠

会社法や金融商品取引法には、一般の事業会社に内部監査部門の設置そのものを直接義務づける規定はありません。ただし、大会社である取締役会設置会社には内部統制システム(業務の適正を確保するための体制)の整備に関する決定が義務づけられており(会社法第362条)、上場会社には財務報告に係る内部統制の評価・報告が求められます(J-SOX)。こうした体制が実際に機能しているかを確かめるモニタリングの中核を担うのが内部監査であり、上場審査でも内部監査の整備・運用状況は必ず確認されます。金融機関など、業法や監督指針で内部監査態勢が求められる業種もあります。成長企業にとって「義務ではないから後回し」は、現実的な選択肢ではありません。


前提2:内部監査は「第3線」の独立した評価機能

2023年4月に改訂された内部統制基準・実施基準(2024年4月1日以後開始する事業年度から適用)では、いわゆる「3線モデル」が例示されました。業務執行部門(第1線)、リスク管理・コンプライアンスなどの管理部門(第2線)と区別して、内部監査部門は第3線として独立的な評価を担うと位置づけられ、その機能を取締役会や監査役等による監督・監視と適切に連携させることの重要性も示されています。立ち上げ時に最も大切なのは、内部監査部門を「管理部門の延長」や「経営者の便利な調査部隊」にしないことです。

前提3:拠り所となる基準はグローバル内部監査基準

内部監査の職業的な拠り所は、IIA(内部監査人協会)が定め、2025年1月から適用されているグローバル内部監査基準です。特にドメインⅢ(内部監査部門に対するガバナンス)とドメインⅣ(内部監査部門の管理)には、部門の位置づけ、内部監査基本規程、監査計画、資源、品質に関する要求事項が集約されており、立ち上げの設計図としてそのまま活用できます。


内部監査部門 立ち上げの7ステップ(全体像)

STEP

やること

主なアウトプット

1

経営者・取締役会等の期待を確認し、目的を定める

ヒアリング記録、部門のミッション

2

組織上の位置づけと報告ラインを設計する

組織図、報告ラインの定義

3

人員・体制と実施形態を決める

要員計画、外部活用方針

4

内部監査規程・マニュアル・様式を整える

内部監査規程、監査マニュアル、調書・報告書様式

5

監査ユニバースとリスク評価から監査計画をつくる

監査ユニバース、リスク評価表、年間・中期監査計画

6

パイロット監査で「型」をつくる

初回の監査調書・報告書、改善計画

7

報告・フォローアップ・品質評価を仕組み化する

定期報告、フォローアップ台帳、自己評価

以下、ステップごとに具体的に見ていきます。


STEP1:経営者・取締役会等の期待を確認し、目的を定める

最初にやるべきことは、規程づくりではなくヒアリングです。社長(最高経営者)、取締役会のメンバー(特に社外取締役)、監査役等、管理部門の責任者に、「内部監査に何を期待しているか」「会社として何が一番心配か」を聞いて回ります。

期待は人によって驚くほど違います。社長は「現場の不正やルール違反を見つけてほしい」、社外取締役は「重要リスクへの対応状況を客観的に報告してほしい」、監査役は「業務監査の情報を共有してほしい」、管理部門は「J-SOX評価を担ってほしい」——こうした期待を並べて優先順位をすり合わせ、部門のミッション(目的と提供するサービスの範囲)を文章化します。グローバル内部監査基準の基準6.1(内部監査への負託事項)が求める、内部監査の権限・役割・責任を明確にする作業にあたります。

あわせて、社内にすでに存在する監査・点検活動(品質監査、ISO内部監査、情報セキュリティ監査、店舗・拠点の巡回点検、子会社管理部門による点検など)を棚卸しします。重複や空白を把握しておくと、後のリスク評価と計画づくりが格段に楽になります。


STEP2:組織上の位置づけと報告ラインを設計する

社長直轄が基本、さらに取締役会・監査役等への直接報告を

内部監査部門は、監査対象となる業務執行部門から独立した位置に置く必要があります。日本企業では社長直轄とするのが一般的ですが、それだけでは「社長自身が関与する領域」や「経営陣の意思決定プロセス」を監査しにくいという限界があります。

そこで標準になりつつあるのが、社長への報告に加えて取締役会や監査役会・監査委員会等へも直接報告するデュアルレポーティングです。2021年改訂のコーポレートガバナンス・コード補充原則4-13③は、内部監査部門が取締役会・監査役会に対しても適切に直接報告を行う仕組みを構築すること等により、内部監査部門と取締役・監査役との連携を確保すべきとしています。グローバル内部監査基準も、原則7(独立した位置付け)の基準7.1(組織上の独立性)で、内部監査部門長が負託事項を果たせる組織上の位置に報告すること、そして取締役会との直接の報告関係を求めています。


立ち上げ時に決めておく報告ルール

  • 監査結果の報告先(社長、取締役会、監査役等)と報告の頻度(個別監査ごと、四半期、年度)

  • 内部監査部門長の任免・評価に誰が関与するか(社長単独で決めない仕組みが望ましい)

  • 監査役等・会計監査人との定例ミーティングの設定(三様監査の連携)

  • 管理担当役員の下に置く場合は、その役員の担当領域を監査する際の独立性確保策

立ち上げ期の小規模企業では「管理本部の中に内部監査室を置く」形もよく見られますが、管理本部自体が重要な監査対象であるため、独立性の観点からは避けたい設計です。


STEP3:人員・体制と実施形態を決める

必要人員は「工数」から逆算する

「何人いればよいか」は立ち上げで最も多い質問ですが、従業員数に対する決まった比率はありません。監査対象と頻度から必要工数を見積もり、逆算するのが実務的です。

試算例を示します。監査対象(部門・拠点・子会社)が30ユニットあり、高リスクの8ユニットは毎年、中リスクの12ユニットは2年に1回、低リスクの10ユニットは3年に1回監査するとします。年間の監査件数は約17件(8+6+約3)です。1件あたり、予備調査・本調査・報告とフォローアップで平均15人日かかるとすると、年間の必要工数は約255人日になります。監査人1人が年間に監査業務へ充てられる時間を、会議・研修・計画業務などを除いて約170人日とすれば、必要人員は約1.5人。内部監査部門がJ-SOXの評価業務も担う場合は、その工数を上乗せして2〜3名、という見当がつきます。

この試算があれば経営者に要員を要求する際の根拠になり、人員が足りない場合も「監査頻度を下げる」「外部を活用する」といった選択肢を定量的に議論できます。


内製・コソース・アウトソースの選択

形態

概要

向いているケース

内製(インソース)

社内人材で計画から報告まで実施

経験者を確保できる、監査ノウハウを社内に蓄積したい

コソース

社内の責任者が主導し、専門領域や繁忙期を外部専門家と分担

経験者が少ない立ち上げ期、IT監査など専門領域がある

アウトソース

監査業務の大部分を外部に委託

社内に人材がいない、短期間で運用実績をつくる必要がある

立ち上げ期に現実的なのは、社内に責任者を置いたうえでのコソースです。アウトソースを選ぶ場合でも、監査計画の承認、結果の報告、改善のフォローアップの主体は社内に残すべきです。外部に丸投げした内部監査は「機能している」と評価されにくく、ノウハウも社内に残りません。


兼任で始める場合は「自己監査」を避ける

専任者を置けず、管理部門の担当者が内部監査を兼任して立ち上げる企業も少なくありません。その場合に必ず手当てしたいのが、自分の担当業務を自分で監査する「自己監査」の回避です。兼任者の所属部門は別部門の担当者が監査する(相互監査)など、客観性を確保する仕組みを規程に明記しておきます。IPO審査の実務でも、兼任体制の場合はこの点が確認されるのが一般的です。


STEP4:内部監査規程・マニュアル・様式を整える

内部監査規程(内部監査基本規程)に盛り込む項目

内部監査規程は、内部監査部門の存在根拠となる最も重要な文書です。グローバル内部監査基準の基準6.2(内部監査基本規程)は、内部監査の目的、基準への準拠、負託事項(業務の範囲と種類、権限)、組織上の位置づけと報告関係などを規程で明確にし、取締役会の承認を得ることを求めています。日本企業の規程では、次の項目を盛り込むのが一般的です。

  • 目的(内部監査の使命と、準拠する基準)

  • 組織上の位置づけ(社長直轄、取締役会・監査役等への報告)

  • 監査の対象範囲(全部門・全子会社を含む業務全般)

  • 内部監査人の権限(記録・資産・人員へのアクセス権、資料提出・説明を求める権限)と監査対象部門の協力義務

  • 内部監査人の義務(独立性・客観性、守秘義務、専門的能力の維持)

  • 監査の種類(定期監査、特命監査、助言業務)

  • 監査計画(年間計画の策定と承認手続)

  • 監査の実施手続(通知、予備調査、本調査、講評)

  • 報告(報告書の作成、報告先、報告の時期)

  • 改善措置とフォローアップ(改善計画の提出義務、改善状況の確認)

  • 監査役等・会計監査人との連携

  • 監査調書の作成・保管

  • 規程の改廃手続

規程は「権限の根拠」です。特に「監査対象部門は資料の提出を拒めない」「監査対象部門は改善計画を提出しなければならない」といった条文は、現場との調整で監査人を支える力になります。


マニュアルと様式で属人化を防ぐ

規程に加えて、監査マニュアル(業務手順)と主要な様式(監査通知書、資料依頼リスト、監査調書、発見事項整理表、監査報告書、改善計画書、フォローアップ台帳)を整えます。グローバル内部監査基準の基準9.3(手法)も、内部監査部門長に監査業務の手法を確立することを求めています。最初から完璧を目指す必要はありません。パイロット監査で使いながら改善していく前提で、まずは簡素な版をつくりましょう。


STEP5:監査ユニバースとリスク評価から監査計画をつくる

監査ユニバースをつくる

監査対象になり得る単位(部門、拠点、子会社、業務プロセス、システム、全社横断テーマ)をすべて洗い出した一覧が「監査ユニバース」です。組織図と業務分掌、子会社一覧、主要システム一覧をもとに作成し、それぞれに売上・人員・取引量などの規模情報を添えます。


リスク評価で優先順位をつける

各ユニットを、影響度(金額的重要性、法令・規制、レピュテーション)と発生可能性(業務の複雑性、変化の大きさ、過去の問題、管理体制の成熟度)でスコアリングし、高・中・低に区分します。STEP1で聞いた経営者・取締役会等の関心事項も評価に反映させます。


年間監査計画と中期監査計画

リスク評価をもとに、年間監査計画(監査テーマ、対象、時期、担当、工数)を策定し、承認を得ます。グローバル内部監査基準の基準9.4(内部監査の計画)は、組織体の戦略・目標・リスクに関する文書化された評価(少なくとも年1回実施)に基づいて計画を作成し、必要な資源を明らかにしたうえで、取締役会等と協議し承認を得ることを求めています。あわせて、全ユニットを3〜4年で一巡する中期監査計画をつくっておくと、監査対象の偏りを防げます。

初年度の計画は、欲張らないことが最大のコツです。立ち上げ期は規程整備やパイロット監査にも工数を取られるため、通常の6〜7割程度の件数で計画し、期中にリスクが顕在化した場合に備えて特命監査用の余力も確保しておきましょう。


STEP6:パイロット監査で「型」をつくる

計画が承認されたら、まず1〜2件のパイロット監査を実施します。最初の監査は、その後の内部監査部門の評判を決める「お披露目」です。対象は、高リスクすぎず(初回から大きな対立を生まない)、協力が得やすく、業務が標準的な部門を選ぶのが定石です。

パイロット監査では、予備調査から講評会、報告書、改善計画の受領、フォローアップまでを一通り回し、規程・マニュアル・様式の使い勝手を検証します。監査対象部門に事後アンケートを取り、「分かりにくかった点」「負担が大きかった点」を聞いて改善につなげると、内部監査部門が現場の味方であることを示すメッセージにもなります。個別監査の詳しい進め方は「内部監査の進め方」の記事、調書の書き方は「監査調書の書き方」の記事で解説しています。


STEP7:報告・フォローアップ・品質評価を仕組み化する

監査が回り始めたら、「回し続ける仕組み」を整えます。

  • 定期報告:個別監査ごとの社長報告に加え、四半期または半期ごとに取締役会・監査役等へ監査の進捗、主な発見事項、改善状況を報告する

  • フォローアップ台帳:すべての指摘事項と改善計画を一元管理し、期限到来時に改善状況を確認する。重要な未改善事項は経営者・取締役会等へ報告する

  • 品質の内部評価:年度末に監査活動を自己評価し、次年度の改善につなげる(グローバル内部監査基準の基準12.1 品質の内部評価、12.2 パフォーマンスの測定)。少なくとも5年に1回は外部評価(基準8.4)も受ける

  • 人材育成:監査人の育成計画と研修記録を整備する(詳しくは「内部監査の社内研修」の記事で解説しています)


立ち上げ初年度のスケジュール例

立ち上げから1年間の進め方の一例です。

時期

主な取り組み

1〜2か月目

経営者・取締役会・監査役等へのヒアリング、既存の監査・点検活動の棚卸し、位置づけ・報告ラインの決定

2〜3か月目

内部監査規程案の作成と承認、マニュアル・様式の整備、外部専門家の選定(コソースの場合)

3〜4か月目

監査ユニバースの作成とリスク評価、初年度監査計画の策定・承認

4〜6か月目

パイロット監査(1〜2件)の実施、規程・様式の見直し

6〜11か月目

年間監査計画に沿った本格運用、四半期ごとの報告、フォローアップの開始

12か月目

年度総括報告、品質の自己評価、次年度のリスク評価と監査計画の策定

最初の1年は「型をつくる年」、2年目は「型を回して改善する年」と位置づけると、関係者の期待値も調整しやすくなります。


IPO準備企業が押さえるべき内部監査のポイント

IPOを目指す企業の場合、立ち上げは上場スケジュールから逆算して進める必要があります。日本公認会計士協会のIPOガイドブックでも、直前々期(N-2期)には管理体制の整備・運用の段階に入り、直前期(N-1期)の期首からは上場会社と同様の管理体制を運用していることが想定されています。内部監査は、この管理体制の重要な一部です。

上場審査で問われるのは、内部監査部門が「あること」ではなく「機能していること」です。実務上は、次の状態を直前期中に実現しておくのが目安とされます。

  • 内部監査規程が整備され、承認を得た年間監査計画に基づいて監査が実施されている

  • 原則として全部門・全拠点(重要な子会社を含む)を一巡している

  • 監査結果が社長に報告され、指摘事項に対する改善計画の提出と改善状況の確認(フォローアップ)まで記録が残っている

  • 兼任体制の場合、自己監査を回避する仕組みが機能している

  • 監査役等・会計監査人との連携(三様監査)の実績がある

逆算すると、N-2期の早い段階で責任者を決め、規程整備とパイロット監査を終えておくのが理想です。上場後はJ-SOXに基づく経営者評価への対応も始まるため、内部監査部門がその評価を担うかどうかも、要員計画の段階で決めておきましょう。


立ち上げでよくある5つの失敗と対策

  1. 規程と計画だけ作って監査が回らない:書類は整っているのに、実際の監査が年に数件しか終わらないケースです。初年度の計画件数を絞り、確実に完遂できる量にすることが対策です。

  2. 範囲を広げすぎて初年度に破綻する:全部門・全テーマを一度に見ようとして、浅い監査を量産してしまうケースです。リスク評価で絞り込み、残りは中期計画で順次カバーします。

  3. 経営者の「便利屋」になる:業務改善の実行、規程の作成代行、第2線業務の肩代わりなどを引き受け続けると、自分で作った仕組みを自分で監査する状態に陥り、独立性が失われます。助言業務として引き受ける範囲を規程で明確にしておきましょう。

  4. 現場から「警察」と見られる:最初の監査で細かな形式的不備を大量に指摘すると、以後の協力が得られにくくなります。リスクの大きい論点に絞り、改善策は現場と一緒に考える姿勢を示します。

  5. 報告ラインが社長だけで、トップの関与領域に踏み込めない:経営者が深く関与する取引や意思決定プロセスを監査できない構造は、不祥事の温床になります。取締役会・監査役等への直接報告ルートを最初から設計しておくことが最大の予防策です。


新規事業部の立ち上げに内部監査はどう関わるか

ここまでは内部監査部門そのものの立ち上げを解説してきましたが、「事業部立ち上げ」には、会社が新規事業部を立ち上げる際に内部監査がどう関与するか、という論点もあります。新規事業は既存事業とは異なるリスクを抱えたまま走り出すことが多く、内部監査が関与する価値の高い領域です。


新規事業部に特有のリスク

  • 規程・権限・承認ルールが未整備のまま、既存事業のルールが合わない状態で業務が始まる

  • 少人数で立ち上げるため職務分掌が効かず、一人が発注から支払まで担う

  • 許認可・業法・個人情報保護など、新しい規制の見落とし

  • 新規取引先の与信管理や契約審査が後回しになる

  • 売上計上(収益認識)や原価管理の会計処理が既存事業と異なり、誤りが生じやすい

  • 立ち上げ目標(KPI)の達成プレッシャーによる不適切な取引や数字の操作

  • 拙速に導入したシステムや外部委託先への過度な依存


関与のタイミングと方法

  1. 企画・承認段階(助言):事業計画の承認プロセスに、リスクと統制の観点からの助言として関与します。撤退基準やモニタリング指標が計画に組み込まれているかの確認も有効です。

  2. 立ち上げ直後(3〜6か月):権限規程、承認フロー、契約・与信管理、会計処理などの整備状況を簡易レビューし、早期の軌道修正を促します。

  3. 立ち上げから1年前後(アシュアランス):運用が安定した段階で、通常の個別監査として整備・運用状況を評価します。


注意したいのは客観性です。助言業務で統制の設計に深く関与した領域を後にアシュアランス業務として監査する場合は、担当者を分けるなど、客観性を損なわない手当てが必要です。新規事業への関与方針は、年間監査計画や内部監査規程の中で助言業務として位置づけておくと、場当たり的な関与を防げます。


立ち上げ担当者に求められるスキルと経験

内部監査部門の立ち上げポジションの求人では、事業会社での内部監査経験、内部統制・コンプライアンス・リスク管理の運用経験、規程整備などのガバナンス業務経験に加えて、上場企業やIPO準備企業での経験、ゼロからの体制構築経験、プロジェクト推進やメンバー指導の経験が求められる傾向があります。

実務の観点から整理すると、立ち上げ担当者に特に必要なのは次の3つです。

  • 全社を見渡す業務理解:監査ユニバースとリスク評価は、会社の事業と業務の全体像を理解していなければつくれません。経理・営業・管理部門など複数部門の経験は大きな強みです。

  • 経営層と対話する力:STEP1のヒアリングやSTEP2の報告ライン設計は、経営者や社外役員と率直に話せることが前提です。

  • 仕組みをつくり、手放す力:規程・様式・計画を自分の頭の中だけで回さず、誰でも運用できる形に落とし込む力が、部門を属人化させない鍵です。


監査実務の経験が浅い場合でも、CIA(公認内部監査人)などの資格学習で体系的な知識を補い、立ち上げ期は外部専門家とのコソースで実務を吸収するという道があります。


よくある質問(FAQ)

Q1. 内部監査部門の設置は法律で義務づけられていますか?

A. 一般の事業会社について、内部監査部門の設置を直接義務づける法律の規定はありません。ただし、大会社の内部統制システムの整備決定(会社法)、上場会社の財務報告に係る内部統制の評価(J-SOX)、上場審査での内部管理体制の確認などにより、上場企業や上場を目指す企業では事実上不可欠です。金融機関など、業法や監督指針で内部監査態勢が求められる業種もあります。


Q2. 1人で内部監査室を立ち上げることはできますか?

A. 可能です。実際、1名体制(ひとり監査室)から始める企業は少なくありません。その場合は、監査件数を工数から現実的に見積もること、専門領域や繁忙期は外部専門家を活用すること、自分が以前所属していた部門を監査する際の客観性に留意することがポイントです。


Q3. 立ち上げにはどのくらいの期間がかかりますか?

A. 規程・様式・初年度計画の整備までに3〜4か月、パイロット監査を含めて約半年、監査サイクルを1年回して「型」が固まるのが一般的な目安です。IPO準備企業の場合は、直前期に運用実績を示す必要があるため、上場スケジュールから逆算して早めに着手することが重要です。


Q4. 内部監査を外部に全面委託(アウトソース)してもよいですか?

A. 可能ですが、社内に内部監査の責任者を置き、監査計画の承認、結果の報告、改善のフォローアップの主体は社内に残すことをおすすめします。将来的に内製化する計画とセットで外部活用を設計すると、ノウハウを社内に蓄積できます。


Q5. 内部監査部門長(内部監査室長)には誰を任命すべきですか?

A. 監査対象から独立していること、全社業務を理解していること、経営者や社外役員と対等に対話できることが重要な条件です。グローバル内部監査基準にも基準7.2(内部監査部門長の適格性)があります。経理部長や管理本部長との兼任は、自らの担当領域を監査することになるため、独立性の観点から避けるのが望ましいでしょう。


Q6. 監査役がいれば、内部監査部門は不要ではありませんか?

A. 不要にはなりません。監査役は取締役の職務執行を監査する会社法上の機関であり、内部監査部門は経営者や取締役会のために業務全般の有効性を継続的に評価する組織内部の機能です。両者は役割が異なり、会計監査人を加えた三様監査として連携することで、監査全体の実効性が高まります。


まとめ:立ち上げの成否は「最初の1年の設計」で決まる

内部監査部門の立ち上げのポイントを振り返ります。

  • 立ち上げのきっかけはIPO準備、上場後の高度化、グループ再編、規模拡大、不祥事対応など。場面によって優先順位とスピードが変わる

  • 最初にやるべきは規程づくりではなく、経営者・取締役会・監査役等の期待のヒアリング

  • 報告ラインは社長直轄に加え、取締役会・監査役等への直接報告(デュアルレポーティング)を最初から設計する

  • 人員は工数から逆算し、立ち上げ期は社内責任者+外部専門家のコソースが現実的。兼任時は自己監査を回避する

  • 内部監査規程は権限の根拠。監査ユニバースとリスク評価で計画を絞り込み、パイロット監査で型をつくる

  • IPO準備企業は、直前期に全部門一巡とフォローアップまでの運用実績を示せるよう逆算して着手する

  • 新規事業部の立ち上げには、企画段階の助言、立ち上げ直後の簡易レビュー、1年前後のアシュアランスと段階的に関与する


内部監査部門は、立ち上げた瞬間ではなく、監査が1サイクル回り、指摘が改善につながったときに初めて組織に認められます。最初の1年を「型をつくる年」と割り切り、小さく始めて確実に回すことから始めてください。

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